コボルドの隠れ里

多分TRPGの話とかします

TRPGオタの俺が女子高の文芸部の顧問になって困達とセッションするハーレムラノベ 第二章

2-1 困ったちゃん

TRPGにおいて、「困ったちゃん」といわれる人種が存在する。

 黎明期古代ダンジョン&ドラゴンズの時代において、アメリカ人たちは「ゲームマスターの親を人質に取った状態でプレイしなければ、自分のキャラクターが殺される」状態で遊んでいたらしい。言ったもん勝ちの世界だったようだ。

 そして時は流れ、共通理解として最低限の協力体制が無ければゲームが成立しないということを理解したらしいアメリカ人は、なんとかゲームとして遊べるところまでTRPGを持って行ったようだ。

そんなアメリカ人達は TRPGのプレイヤーのタイプを分類したようだ。

 戦闘大好きなリアルマン、ロールプレイ大好きなリアルロールプレイヤー、ギャグ大好きなルーニー、自分大好きなマンチキンの四つだ。実はこれ、マンチキンのみが困ったちゃんに見えるが、実は全員困ったちゃんであるという高度なギャグらしいんが。

日本でも、吟遊詩人、地蔵、和マンチなどいろいろな分類があり、某匿名掲示板のTRPG困ったちゃんスレッドは今400を越えている。彼女らを見たとき、ふとそんなことを思い出した。彼女らに「困ったちゃん」のレッテルを貼って終わる。それが一番単純で簡単だ。彼女たちの周りの人間も、そのように当人たちを片づけてきたのだろうか。だが結局、人間はそう簡単に分類(キャラクタライズ)できるもんじゃない。まだそうやって終わらせるには、きっと早すぎる。

 それに、彼女らには向上心があるように思えた。新しいことをやりたいという「熱」が見えた。まだ、行く方向が分かっていないだけで、決して腐ったみかんなんかじゃない。

そうだ。彼女たちのやる気に応えるために、俺も久しぶりにシナリオを書いてみよう。

 

 月一回の職員会議である。

 あまり生産性のない、形式的な報告会の最後、教頭先生が締めの訓示を読み上げる。

「現在では、教育現場をサービス業のように考えている親御さんが多いんですね、せっかく高い学費を払っているのだから、うちの子はもっとサービスされるべきだと、そう思っているわけです。実際、私学というのはある種の塾のような性質のものを備えているため、その傾向が強いんですね。だから先生方もなるべく親御さんの期待に応えるようにしてあげてください」

 正直、「知るかボケ!」と言いたくなる。俺も決して立派な人間ではないが、人にものを教える先生という職業になろうと思ったのは、それなりに理想を持っていたからだ。商売人になりたかったわけじゃない(別に商売人をバカにするつもりではない。彼らがいなければ我々は残業終わりににコンビニやスーパーに寄って半額の弁当を手に入れることができない)。だがまあ無意味に反逆してもこの場が覆るとも思えないし、そんな勇気もないため、俺は黙っている他無かった。上の先生たちもきっと、本当はお偉い様方やお客様方の顔色を伺わざるをえないのだろう。

 勉強は塾で構わない、結果を出している人間がいくらでも目に入ってきて、何かを成さなければいけないという焦燥感だけが募る、そういう時代。

 そういう時代で、結局俺たちはどうしたらいいんだろうか。答えは出ない。

まあ、それはそれとして、俺はただ業務をこなして、時折、セッションをやるだけだ。

2-2 戻ってきたぜ 地獄の底から

 うまい具合に日程が合ったのは、次の週の活動日である。

 「それでは、今日のセッションを始めたいと思います。皆さんよろしくお願いします」

「お願いしまーす」

 GMでのセッション開始時には、とりあえず俺は挨拶で始めることにしてる。単に挨拶というのもあるが、GMモードに入るための俺なりのある種のルーチンでもある。

ぶっちゃけ、挨拶するのはあまり好きではないのだが、セッションする時だけは必ずやるようにしている。仕事の時でもやれよって?ごもっともな指摘だ。

 リベンジマッチだ。クトゥルフ2010の定番シナリオ、「もっと食べたい」にしようと思ったが、ふわりが動画で見ているようだったので、「洒落怖」に寄せたやつを一本書き下ろしてみることにした。ぶっちゃけ、部員たちは全員クトゥルフ神話にあまり馴染みがない様子だったため、現代の日本人に馴染み深そうな路線に寄せてみた。正直、ホラーはあまり書くのは得意ではないが、シナリオとしてなんとか食えるレベルまで持って行けた。

 いわゆる『冒涜的な』という宗教感覚が日本人にはあまりないため、ゼロ年代前後の和ホラーが面白かった時期やいわゆるネットの洒落怖(というか、クトゥルフ2010はそのあたりが焦点)をモチーフにするとシナリオが組みやすいようだ。「○○の正体は神話生物でした」オチでもいいしな。Jホラーや洒落怖あたりで育った層にクトゥルフは受けてるのかもな。

 話はそれたが活動時間は放課後の3時間程度だし、ましてや相手は皆TRPGに慣れていない。二時間半で終わる分量に納めるならそんなにたいしたシナリオは必要ない。サクサク進めていけばいいのだ。

今回も、事前にすり合わせをしてもらいつつ、ある程度キャラクターを作ってもらってきた。

 

「この子にどんな名前を付けようか、非常に悩みますわ……」

 シャーペンを握りしめつつお母さんみたいなことを言い出す月子。彼女らしい悩みだ。俺も悩む方だ。

「気持ちはめっちゃわかるがほどほどにしとけよ。他のプレイヤーが覚えやすいのにしとくとベストだな」

「じゃあ『ああああ』で」ふわりの横槍。

「お前それセッション中に声で出して呼び合うんだぞ?ダーマ神殿で変えてもらえなくなるぞ」

「??ダーマ神殿???????」

あ、通じてない。キノコ狩りの男の方のダーマももう通じないのだろうか。

「では『ほも』にしましょう」

 金髪美少女が何か言っている。この場合の金髪美少女とはTASさんのことを指す。

「入力速度を考慮する必要はない。あと昨今はポリコレがうるさいからやめなさい」

 名前をとりあえずパッと付けるには名前ジェネレーターが便利だが、なかなかうまくしっくりこなかったりする。

 教科書的にはキャラクターのネーミングは「ゆかり・茜・マキ」みたいな感じでなるべく文字の数とか音とかがかぶらない、つまり『名前の形が似てない』のが理想のよう。ただTRPGは複数人でやるゲームなのでこれがなかなか難しかったりする。

 ここの面々も漢字二文字が多いしな。実際は理論通りには行かないことも多い。、銀河ヒッチハイクガイドなんかでも主人公パーティーににフォードとゼイフォードがいるしな。(アレはなんか特殊なケースなのだろうが)職場にも同じ苗字の生徒やら先生も何人かいる。

 ただ、ある程度名前は散らすことを意識しといたほうがいいのは間違いない。オフセならみんなが各PCの名前を参照できるように百均のホワイトボードとかにPC名を一覧で書くのが最近のスタンダードのようだ。そのまま写真撮ってツイッターに上げられるしな。バズらせていいねをもらうのだ。

 今では俺の場合は、なんかの元ネタをモジって使うことが多い。基本は「名は体を表す」でつけている。ロシアの文豪ドストエフスキーなんかも使ってる手法だ。ただ、TRPGは古典文芸ではないのでソフィヤとソーニャとソーネチカとマルメラードヴァを使い分ける必要はない。というか、無理だろう。

大事なのは『プレイヤー間で覚えられるか・呼びやすいか』だ。D&Dがよく分かる本でも「PCはちゃんと名前で呼びあおう」あたりから再挑戦が始まったようだ。

 

「なんだか、思ったよりもキャラクターになりきるというのは緊張するものですね」

少し肩ひじの張った様子の花凛。ああ、これはTRPG初心者特有の悪い思い込みだ。

「別に無理にキャラクターになりきることはねえよ。『嬉しそうに微笑んでます』とかいうだけでも普通に立派にロールプレイになるぜ」

「……そういうもの、なの?」

小雪が怪訝そうにこちらを見る。

「そういうもんだ。なんだったらセリフに『~~と言います』を付けるだけでもだいぶ照れは減るぞ」

 ちなみに俺はこの方式を好んで使ってる。地の文を入れる事で照れを減らすのだ。

 あとは、小雪のように無言ロールをしたいときは『無言でうなずいてます』とか言えばよいのだ。ただ単に沈黙が続くときが個人的に一番まずい。

「『そういうものかい?僕は全く緊張しないけど』」

なりきりチャットな勢いで初手から突っ走る月子。

「月子は逆に張り切り過ぎ。周りの温度をもうちょっと見なさい」

「そんな!」

ショックを受ける月子。最初からハイペースで行くのも悪いことではない。自分がホットスタートを決めて周りも一緒にあったまっていくならいいが、周りがだんだん冷めていって温度差が広がっていくのには注意だ。

 ロールプレイの最初の一歩は『照れを捨てること』もしくは『いかにに照れずにできる状態を作るか」だ。

 

「それにしても、今日作ったキャラクター達はどうしてこのシナリオに集まったんでしょうか。全然接点無さそうなのに」

 TRPGのセッションで本当によく見る光景である。「なんでこいつら知り合いなんだろう状態」である。

「それはだな、今日俺たちがここでセッションをやっている位の運と偶然と因果力がPC質にも同様に働いていると思ってくれ」

 実際のセッションでは、多少無理があってもPC同士の関わり合いが強い方が楽しいセッションになるのは言うまでもないだろう。整合性なんていくらでもこじつけられるもんだ。

原理としては少年漫画の主人公パーティーが、敵が味方になりまくってだんだん寄せ集め愚連隊になるのと似たようなものであろう。

「まあ!先生!なんだかロマンチックですわね。先生と私が運命で引き合っているだなんて!照れてしまいますわ!」

 恋する乙女暴走モードに入る月子。こわい。

「……おーい、月子ー、戻ってこーい」

「すぐに戻ってきますので、先に進めましょう、先生」

 そうだ。あまり時間はないのだ。

手拍子を一拍した後、俺はオープニングを開始した。

 

「うーん、じゃあそっちに行ってみようかな」

 変な方向に行きはじめようとするふわり。

「おやぁ~?いいのか~い?俺知らないよ~?」

「あ、先生が悪い顔してます。そっちにはいかない方がいいのだと思います」

「まあ、ぶっちゃけて言えばそうだな」

 ゲームをやる人種は、とりあえず選択肢でNOを押してみたがるタイプが多いが、TRPGにおいては無意味に時間を消費するばかりであまり面白みのあるものではない。気持ちは分かるがサクサク進めてしまった方がおそらくは楽しい。セッションは基本、巻き戻しが効かないからな。

 その場合、誘導するためにわざとPC達がハマりそうなの喜ぶハッタリも、ある種アリではあるだろう。。

 この場合の俺はさらにぶっちゃけてしまう事で「じゃあしょうがないなあ」感を出そうとしている。

 これに関係した話だが、煽り等に無言になってムッとするよりは「うわームカつくー!」みたいな反応をしていく方が場が和むためありがたいともいえる。

 

「というわけで、今日のシナリオ、『リアル』を終わります。みなさんお疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー!」

 全員、心地よい疲労と充実感のある顔をしている。うまくいったようだ。

「なかなかにホラーテイストなシナリオでしたわ!元ネタの怪談はあるのでしょうか?」

「ちょっと古いが『洒落怖』だな。2ちゃんねるのオカルト板の都市伝説群だ」

「今は5ちゃんねるですよ、先生」

 そういえば、そうだよな。時代を感じる。現実問題、今5ちゃんを知ってる女子高生の割合はどれくらいなんだろうか。まとめサイトと誤認してない割合も気になる。

「まさかふわりがやたら振りまくってた『跳躍』が役に立つとはな」

「いやいや、センセーがアタシの発言拾ってくれたからだよー」

「そんなことはない。ふわりのアイディアが説得力があったおかげだ」

「えへへー、あたしのプレゼン力もなかなかでしょ」

 ドヤ顔するふわり。どうやら彼女は発想力と面白そうに物を提案する能力に長けているようだ。

「むう……」

 不満げに、花凛がダイスを手で弄びつつ眺めている。

「どうしたんだ。自信満々で受けたテストが赤点だった、みたいな顔して」

「先生が持ってきたダイスは『同様に確からしく』ありません」

 セッション中、連続でファンブル振りまくった花凛がブータレている。出目の偏りはよくあることだが、彼女は納得がいかないらしい。

「そうか?グラサイ持ってきた記憶はないぞ?」

「いいえ、統計学的に絶対おかしいです。」

「……そんなことは、ない」

 カラカラとダイスが机にぶつかることで生じる小気味の良いロール音が響く。結構うるさいのだ、コレ。次はダイスマットか何かを買って来よう。

 いつの間にか花凛から奪って小雪が振っていたダイスは、01、ーーーーーークリティカルを示していた。

小雪、お前ダイス運いいよな」

「納得いきません。藍沢さん、それはどういった原理なのですか」

 ぷんすかしている花凛。漫画ならそういうマークが頭から出ているところだろう。

「……特に、何もしてない」

特に理由はないらしい。

「最後の藍沢さんの連続クリティカルが無かったらどうなってたことやら」

 セッション前半、殆ど喋らずついてくるだけだった小雪だが、途中でみんなが疲れて動きが鈍ってきたあたりからぽつぽつとしゃべり始めるようになり、最終的においしいところを持って行ったのだ。

 なぜかこういうことが往々としてあるのがTRPGというゲームである。

 そんなことをしている間に、トロイメライが鳴り始めた。

「もうこんな時間か。早いな」

「……そういえば、明日英語、小テストの日」

「そうですわ。忘れていました」

 10点満点で落ちたら再テストの少し面倒なヤツだ。

「アタシは別にどうせ落ちるし、もうどうでもいいやー」

 早速諦めているふわり。俺も勉強、嫌いだったなあ。今でもそうだが。

「今日セッションでいっぱい遊んだんだから、そう言わずに帰りの電車でちょっと頑張ってみ」

「うーん、しょうがないなあ、ちょっとだけだよ」

 俺の励ましにすっげえ渋々とした顔をするふわり。気持ちはわかるが、やるしかないんだ。

「あーあ、こうして紙とペン並べてるのに、どうしてベンキョーはあんなにつまんなくて、TRPGはこんなに楽しいんだろう」

 私は液体ですといわんばかりにぐったりと机につっぷすふわり。小学生か。

「確かに、セッションの風景は、遠目に見ると勉強会にも見えますわね」

「……勉強会は、ダイス、使わない」

 確かにそうだ。テストの際の5択問題に持ち込む場合でも、普通は鉛筆を使う。いや、使うべきではないのだが。

「私は、勉強も楽しいと思いますが」

「そりゃーイインチョーはベンキョー好きだからいいじゃん」

 そう言われてみると、GMをやることと授業は、確かに似ている。

 その瞬間、それまでずっとバラバラだった何かが、俺の中で繋がる感じがした。

 

「十文字先生の授業、ちょっと良くなったって生徒たちから評判ですよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「何かコツでも見つけたんでしょうか?」

「いや、そんな大したことじゃないんです」

 簡単だ。ゲームマスターをやってる時の精神状態で授業をやるようにしただけだ。

 俺がGM、生徒たちはPL、指導要領はシナリオ。生徒たちが答えを出せるかが成否判定。もし失敗してもこちら側で問題の難易度を下げつつリカバリ。自発的にアイディアを出してくれたら褒める。ただ、なにしろPLが40人近くいるので、実際のTRPGよりは俺が誘導する要素が強くなってしまうが、最終的に授業の進行のトリガーにするのは生徒たちの回答。ちょっとだけ、授業の主役を生徒側に置くことができた。

何よりも、俺が前より少しはっきりとしゃべることが出来るようになった。

 だがまさか「TRPGのおかげです!」的進研ゼミの広告みたいなことを言うわけにもいかないため、口を閉ざすしかなかった。