コボルドの隠れ里

多分TRPGの話とかします

TRPGオタの俺が女子高の文芸部の顧問になって困達とセッションするハーレムラノベ 第四章

第4章 ゲームのルルブを壊してしまったのですが!

 

「あっ」

 書籍が一冊、裂けて崩壊した。分厚い紙の束の断片が床に落ち、鈍い音が響いた。

 とうとう恐れていた事態が起きてしまった。適当にかばんに放り込んだり回し読みしたり、劣悪な保存状態で酷使しまくっていた俺のクトゥルフのルールブックが自壊してしまった。

「……ごめん、先生」

 申し訳なさそうにしている小雪。最後に読んでたのは彼女だ。

「物はいつか壊れる。しょうがない。怪我はないか?」

「私は、大丈夫。……!?」

 ルルブの断片を拾い上げようとしてしゃがんだ小雪が急に止まる。どうしたんだろうか。

「……」

「……なるほどな」

 小雪が無言で拾い上げてこちらに見せてきたページは87ページの「アレ」だった。なるほど、ちょうどアレが表に来るところで崩壊しやがったようだ。急に出てくると普通にビビる。SANチェックものである。周りではギャーギャー声が上がっている。

 

「さて、どうしたものか……」

「年期の入った一冊でしたものね…」

「一応読めねえことはないが、流石に買い替えの時期か…」

 さよなら。俺のルルブ。7年ぐらい思い出をありがとう。安い買い物ではなかったし、重いし読みづらいしなんかボロクソ言いまくってるが、価値ある図書だったよキミは。

 ぶっちゃけ、海外の現行は7版らしいので微妙に今さら6版買い直し?感はあるっちゃあるが、いつ版上げされるかも正直疑問なので、買っちゃってもいいだろう。6000円+税は普通にプロレタリアートには痛いっちゃ痛いが、メスガキにはともかく大人のオスが払えない金額ではない。

 さて、帰りに横浜のイエサブに寄るか、藤沢のジュンク堂にするか(ビッグカメラのFAGが安いんだよな)。残業が無ければ間に合うのだが。最近では町田のアニメイトなんかにもクトゥルフコーナーが出来ていたな。町田のイエサブは最近改築して広くなったのでデュエルスペース前を通らずに済む。アマゾンで他のルルブの電子版のついでに買うのもいいがな。

 

「そういえば、この本いくらぐらいなのでしょうか?」

「6000円」

「……そんなに、高いの?」

「高い」

 このルールブック、クトゥルフ神話の資料集・データ集としての比重がかなり大きいため、結構な値段になる。現代日本舞台をやるのにほぼ必須なサプリメント(多くの場合、TRPG界ではサプリメントは栄養剤のことではなく追加データ集、・コンテンツのことを指す)2010も買うと諭吉先生が吹っ飛ぶ。そろそろ諭吉じゃなくて別の人になるらしいがな。

「……もし弁償とか考えてるなら今回は別にいいからな。故意じゃないし、そろそろ寿命だったし」

「……いいの?ごめん、先生」

 まだ罪悪感は感じてるようだが、ちょっと、小雪の表情が柔らかくなった気がする。まあ、高校生に6000円はデカいだろう。ルールブックを借りたり共有で使っているグループも多いだろう。そういう場合物損問題や、いわゆる「借りパク」(この言葉、結構定義ブレがあったりするようだが)が生じたりしてしまうこともしばしばある。基本的には他人の所有物はなるべく大切に扱うべきであろう。が、まあ、今回のケースはしょうがない。



「そういえば先生、ルールブック、私たちも買った方が良いのでしょうか」

直球で問題提起をしてくる月子。作劇上の都合とはいえ、露骨である。

「買うのがベストなことは確かだが、今のところ正直お前たちは無理に買う必要はない。お前ら位の歳なら、もっと大事なものに金を使うのもいいんじゃねえか」

 部費で一冊ぐらいは備品として申請が通りそうなこと(学校図書室や図書館の中には実際に寄贈されたルールブックの貸し出しを行っている場所もあるとか。クトゥルフのものかは知らないが)、俺が一冊持っていることを考えるとプレイグループに何冊かある状態なのでまあ、無理に一人一冊買う必要はないというのが一般的な見解なのではなかろうか。

 

「ゴローちゃんにさ、買ってもらえばいいんじゃない?一緒にごはん食べ行くとかなんかで」

パパ活をやめろ」

 浪費癖を直す気のないふわりに、そこまでしてやる義理はない。

「えーでもゴローちゃん敗北者じゃん」

「……別に取り消すつもりはないが、女の相手は仕事で間に合ってる」

 現状、女性に話しかけられる場合10割業務上の厄介ごとが持ち込まれる時なため、これ以上しょうもないに問題解決に当たらされるのは勘弁してほしい。

 ……あと、ちょっとは傷つくので面と向かって悪口を言うのはやめようね。

 

 ツイッターにおいてはルールブックの実所持を巡って非常に高尚な痴話ゲンカ、通称「TRPG学級会」がしばしば繰り広げられているが、「オフラインセッションならプレイグループに一冊、オンラインセッションなら全員が所持するのが理想的」というのが一般的な見解のようだ。

 ただ実際は身内同士ならサンプルキャラクターを使ってGMのみ所持ぐらいの状態でオンセをやることもしばしばあるし、一概には言えない。クトゥルフの場合あまり公式のサンプルキャラシートの配布などが充実しているとは言い難いため、多くの場合一からキャラクターデータを作成することになる。一からキャラビルドをするような場合、一般的にはルールブックが手元に必要になるが、クトゥルフの場合はキャラクターの作成ルールが比較的簡単なため(スキルデータの吟味などがほぼ必要ない)、というかPCのデータの大半が成功率と能力値という『数字』で構成されているため、ルールブックが手元にない状態でも割と出来てしまう。このあたりも未所持問題の一因となっているのだろう。

 

「キミが全くの初心者で、周りにTRPGのプレイヤーがいない状態で、まともな人たちとオンラインセッションがしたいなら、おとなしく買って読みながら、まだ見ぬセッションに対しての想像と期待を膨らませつつ望むのが丸い」というのがおそらくの現状である。最近はほとんど見かけないがたまーに体験卓的に未所持対応の慈善事業みたいなこともされている方もいらっしゃるようなので、世話になってみるのも悪くはないだろう。

 すべての場合において100%倫理的にふるまうのは無理なので、懐に余裕があれば出来る範囲で買ったらいいんじゃないだろうか。ぶっちゃけルルブ不所持自称玄人PL専なんてそんな昔の漫画のわかりやすい悪役みたいな「TRPGごっこ」やってる連中が実在するとは思えない。少なくとも、俺は見たことはない。いや、実際にはいるのかもしれないが。

 

 実際、結構ルールブックは読み物として(それなりに)面白い。昔、ゲームの攻略本を読むのが結構好きだったのだが、そんな感じだ。読み物としては6000円分の価値はあるのではなかろうか。重量があるので押し花やプラ板の圧着の重石としても有用だ。

 クトゥルフ神話の資料集としてもそれなりに有用だし、呪文の一覧なんかけっこう想像力を掻き立てられるのではないだろうか。ただ、正直クトゥルフ神話の参考書としては、新紀元社の『図解雑学シリーズ:クトゥルフ神話』とかの方が分かりやすい(データの数値は乗ってないが)。単価も1500円ぐらいだしな。(著者のバカの出身校の)図書室にも置いてあったし。

 

「先生、そういえばこのダメージボーナスの算出、端数はどうするのでしょうか」 

 キャラ作成をしていた花凛が尋ねてきた。

「悪いが検索してる時間がない。とりあえず今回は切り上げで」

「…承知しました。ですが、そうは言われても、気になります」

 ルールブックはある種教科書のようなものだ。多分そういう細かいルールが気になりだしたら、ルールブックの買い時である。大体の基本的なことはそこに書いてある。

 で、実際はこの処理はどうなのかって?この先はキミの目で確かめてくれ!

 

次の活動日、花凛の机にはルールブックが置かれていた。

「花凛、お前、ルルブ買ったんか」

「ええ、図書券が余ってて。データも研究したかったので」

「それはいいことだな」

  正直、俺もクトゥルフのルール把握は結構あやふやなので助かる。俺は決定的成功とか対抗ロールのやり方とか雰囲気でやっている節がある。あやふやでもGMして大丈夫なのかって?なってしまうぐらいにはCoCのルールはあやふやだったりする。

「ただ一点だけ、クトゥルフの場合は、多分PL回数のが多いうちはデータ部分は見ない方が楽しいかもしれんぞ。ある意味ネタバレだからセッション中神話生物に初見で遭遇する楽しみが薄れる」

「……それ、先に言ってくださいよ!だいぶ読んでしまったではないですか」

 正直高い割に(特に初心者PLが)プレイ時に不要となるデータ集などの部分が多いのも確かなので、プレイヤーハンドブックとKPガイドみたいなのに分けてくれんかなーと思うのも確かである。重いし。厚いし。読みづらいし。

「まあまあ、数値から何まで丸暗記出来るワケではないだろうし、買ったことは無駄にはならないと思うぜ。初心者への心構えのプレイガイドとかいろいろ書いてあるしな」

「……すみません、データにしか興味が無かったもので、その辺はまだ読んでません」

「えぇ……」