TRPGオタの俺が女子高の文芸部の顧問になって困達とセッションするハーレムラノベ 第6話
第6話 開けろ!KP/GM市警だ!
梅雨の明けた頃のとある活動日のことだった。
ふわりが唐突にゴネ始める。ホントいつもこいつ唐突だな。
「どうした。なぜ急に合宿?ゆるキャンでも観たのか」
「見たよ。いや、そうじゃなくてさー、理由なんてどーでもいいじゃん。高校一年生の夏だよ!一生に一度しかないんだよ。海だよ。リア充だよ。青春しよーよゴローちゃん、セーシュンだよ!」
妙な動きをしながらゴネ始めるふわり。動きがうるさい。
「俺から最も遠い言葉を連呼するのやめろ」
悪いが俺はその手のものに縁が無い。
「……泊りで、セッションするの、楽しそう」
あくまで淡々とした態度でありながら、テンションが上がっていることを主張する小雪。意外な所から賛成意見が出た。
「……TRPG合宿、わたくしも賛成ですわ」
もう一件賛成が上がった。今日の月子はやけに真剣な様子だ。いつもの「皆様と一緒に出かけるのは素敵」とかそういうのかと思ったが、どうやらそういうわけではないようだ。何かを決意している奴の目だった。
「…わたくし、GMをやってみたいですわ」
「ほーう、いいじゃん」
教え子の思わぬ発言に、思わず口元が緩む。月子はいつかGMに興味を示すだろうと思ってはいたが、案外早かったようだ。
「ゴローちゃん以外のGMでセッションするの、初めてだ!楽しみ!」
「十文字先生も、前にたまにはプレイヤーをやりたいとおっしゃっていたので、わたくし、頑張ってみることにしますわ!」
「では、合宿の日は白鳥さんのGMデビューということでよろしいですかね」
カツカツと黒板に『GMデビュー』の文字を書いていく花凛。いつの間にか仕切り始めている。
せっかくだから、文学館に行くとかなんとか理由をこじつけつつ合宿に行ってみるのは悪くはないだろう。昔も年一ぐらいで例年合宿に行っていた記録があるようではあるしな。
「で、どこか行きたいところはあるのか」
「海!ハワイ!インスマス!」
「却下。海外は予算の関係で、インスマスは実在しないから無理だ」
「え!?マ!?インスマスって実在しないの!?」
ショックを受けるふわり。インスマスはラヴクラフトの創作した架空の街なので、当然ながら、邪神たち同様、実在しない。いや、本当は邪神は実在するのかもしれないが、神の存在証明はすなわち悪魔の証明なので、ここでは『ない』ということにしておく。 俺が信じるのはダイスの女神ぐらいだ。
「……文学に、関係ある場所」
まともな意見が小雪から出た。
「いいな。文芸部らしい。具体的には小雪はどこに行きたいんだ?」
「……マインヘッド」
「それは、何処なのですか?」
「……イギリス。クラークの、故郷」
だから海外はNGだと言っただろう。
「イギリス!オックスフォード大学とストラトフォードアポンエイボン には一度行ってみたかったのですわ!」
トールキンとシェイクスピアか。結論から言うと、悪いが、行けないぞ。パスポート作ったりなんだりでめんどくさいんだ。
「みなさん、いい加減にしてください。話がまとまりません」
痺れを切らした様子で机から立ち上がり仕切り始める花凛。
「やっぱり委員長じゃないか」
「うるさいですね……」
「そういうイインチョーはどこに行きたいのさ」
「ですから(中略)基本に返って、『吾輩は猫である』で夏目漱石等はいかがでしょうか」
花凛らしい、非常に教科書的な回答だ。
「悪くはないが、漱石は東京だな。合宿には向かないんじゃないか?」
「……ならば、『伊豆の踊り子』で伊豆半島などはいかがでしょうか」
静岡県か。手ごろな近さだ。ふわりの海に行きたいという意見とも合う。熱海の方には太宰ゆかりの旅館などもある。悪くはない。太宰氏自身は割とガチでダメ人間だが。
そして、奇しくもTRPGの大規模イベント、TRPGフェス(旧JGC)は伊豆の隣、 熱海で開催される。俺は、普通に仕事で行くことが出来ないが。
「では、伊豆ということでみなさんよろしいでしょうか」
「OKです」
黒板の伊豆という文字に丸を付ける花凛。
というわけで、合宿は伊豆に行こうということになった。
「ちなみに、先生はどこが良かったんですか?」
「めちゃくちゃ近場じゃないですか!」
「……じゃあ、ドストエフスキー。モスクワ」
「海外!」
というわけで、ここから一度「合宿(月子GM)編」に突入する予定となる。